大判例

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東京高等裁判所 昭和29年(ツ)16号 判決

上告人 椎名正 外一名

被上告人 椎名幸一

〔抄 録〕

上告理由第一点について。

請求に関する異議も執行文付与に対する異議又は異議の訴も特定の債務名義に基く執行を許さない旨の裁判を求めることを目的とする点においては同一であるが、その理由は異るのであつて、前者は債務名義の内容たる請求が、債務の消滅又はその態様に変動の生じたこと等によつて、現在の実体と一致しないことを理由とし、後者は執行文付与についての形式上の瑕疵即ち債務名義が存在しないのに執行文を付与したこと、裁判長の命令を要すべき場合なるに拘らず、その命令なくして執行文を付与したこと等を理由とするか、又は執行の条件たる事実が到来しないのに執行文を付与したこと、或は承継の事実がないのに承継執行文を付与したことを理由とするものである。

したがつて、月賦金の支払を三回以上怠つたときは、債務者は期限の利益を失い、債務残額一時に請求を受けても異議なく、この場合には債務者所有の家屋は債務の代物弁済として債権者の所有となり、債務者は所有権移転登記手続をなし、これを債権者に明渡す旨の条項の記載ある調停調書について、債務者が月賦金の支払を怠つたことがないことを理由として、右債務名義に基く執行を排除又は防止しようとするには、執行文付与に対する異議又は異議の訴の手続によるべく、請求に関する異議の訴を以てすべきものでない。

尤もかような場合は、債務者には月賦金の支払について不履行がないから、代物弁済が効力を生じ、債権者の明渡請求権が発生することがないこと、すなわち債務名義に記載された請求の実体に関することを理由とするものであるから、請求に関する異議の訴の理由とすることができるようにも見えるが、債務名義に記載された請求に実体上の変動があることを主張するものではないから、かように解すべきでない。

ところで、執行文付与に対する異議又は異議の訴は、執行文が付与せられたことを前提とするのであるが、右の場合に請求に関する異議の訴によることが許されないとすれば、債権者が右債務名義に基く強制執行に出ることが明白な事情が存在する場合にも、執行文が付与せられるまでは、債務者は拱手傍観するほかないこととなつて、債務者の保護に欠けるところがあるという見解もあり得るが、債務名義の内容たる請求になんら実体上の変動がないのに、将来の執行に備えて、予め債務者に請求に関する異議の訴を許して、これを保護しなければならない必要はないものと考える。論旨で引用されている判例は共に債務名儀に記載された請求に実体上の変動があつた場合に関するものであるから、採つて以て本件判断の参考とすることはできない。

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